めぐるり -Megururi-

近江八幡の魅力を探求する
WEB MAGAZINE
古い街並みを「残す」だけでなく「活かす」。自分たちの世代ができること
宮村 利典Toshinori Miyamura
目次
宮村さんは滋賀県庁職員を経て、2012年から近江八幡旧市街地に残された酒蔵跡を再生するプロジェクトを始動。その後、宿泊施設やカフェ、コワーキングスペースなど様々な事業を展開してこられました。今の美しい街並みが残っているのは、先人たちの積み重ねがあったからこそ、そういった背景も含めて旧市街地を楽しんでほしいと語る宮村さんの”これまで”と”これから”を聞きました。
公務員時代に感じた限界 – 地方をなんとか元気にしたい

めぐるり編集部(以下、めぐるり)
この10年で旧市街地が大きく変わったなと感じていまして、それはどこからなんだろうって市民の方と話をすると「まちや倶楽部」の名前が上がることが多くありました。この10年で、宮村さんがどのようなことをしてきて、今後はどんな青写真を描いているのか、お伺いできればと思います。
宮村さん
私はもともと近江八幡市出身で、祖父も父も不動産関係の仕事をしていました。近江八幡市唯一の酒蔵が廃業となり、建物がどうなるのか住民の方たちがみなさん心配しているなかで、父が購入を決めて、活用プロジェクトを私も手伝うことにしたのがきっかけです。その前は公務員をしており、地域の福祉に関する業務に携わっていました。ただ、行政ではどうしてもフォローし切れない地域課題があり、民間の力がもっと強くなる必要性を感じはじめました。そういったタイミングだったので、これまでの経験を活かしながら近江八幡でなにかできないかなと参画しました。

めぐるり
まちや倶楽部のプロジェクト発足当初は、どういったビジョンだったのでしょうか。
宮村さん
正直なところ、何をするかは決まっていない状態でのスタートでした。お酒が飲めるような横丁にしようとか、いろいろと内部でアイデアは出ていたのですが、まずはこの場所を市民に知ってもらい、活用してもらうことが重要だと思い、行政の方に協力いただきながら貸しスペースとして様々な催しを実施していきまいした。BIWAKOビエンナーレや和太鼓コンサート、お祭りの際に子ども向けのゲーム会場に使ってもらったり。そのうち、全国的に古民家活用ブームのようなことが起きて、コワーキングスペースや宿泊といった成功事例を知り、2016年頃にまちや倶楽部でも展開することになりました。店舗に関しては、区画を整理して入店を募集するということではなく、本当に偶然、知り合いづてで1年に1店舗ずつ増えていった感じです。みなさん、古いものや歴史を大事にする部分は共通していて、まちや倶楽部だから出店したいとおっしゃってくれます。



めぐるり
宮村さんの想いに共感する人が人を呼んで繋がっていき「いま」があるんですね。来場者も全国からいらっしゃっているんですよね。
先人たちが積み重ねてきた歴史を大切に。自分たちの世代にできることを
宮村さん
そうですね。宿泊でいえばほとんどは県外の方です。まちや倶楽部だけではなく、古い街並みや八幡堀は県外の方からするととても魅力的なんだと思います。だからこそ、この風景を大切にしていかなければと思いますし、先人たちが大切に積み重ねてきたものがあるからこそですので、そういった歴史や背景も伝えていきたいと思っています。それと同時に、残すだけじゃなくてどうやったらまち全体が活性化するかも考えないといけないなと。

めぐるり
文化財として残すだけではなく、いまの時代にあわせて活かすことが長期的にみると大事ということですね。
宮村さん
そうですね。この先のことを考えると「怖いな」という気持ちがあって、僕より上の世代は高度成長やバブルの時代で上昇していく世界だったと思うんですけど、僕は就職氷河期世代で、人口もどんどん減っていく世の中で、国家レベルで弱体化していってて。自分が生まれ育った場所がこれからどうなるんだろうって思うと、なにかしないとって。旧市街地も空き家が増えていますし、外からみたらキレイでも、実情は厳しい状態です。高齢化もあり現役世代があまり住んでいない。そんな中で、自分たちの世代がなにができるのか、模索していますね。
めぐるり
そうですね。当たり前にある訳ではなくて、先人たちが大切に積み重ねてきたからこそ、こうして残されている。近江八幡市に住んでいても、なかなか旧市街地にいく機会がない方も多いのかなという印象があります。
宮村さん
観光100%というのはやっぱり危ういなと思います。やはり市民の方に活用してもらって愛着を持ってもらいたいです。そのためにもさきほどお伝えしたような、歴史や背景をお伝えしながら、いまの時代に合わせて柔軟に事業をしていけたらと思います。
記事の関連情報

まちや倶楽部は、滋賀県近江八幡市旧市街の歴史的町並みに残る町家等の保全と活用を 通じた地域の賑わい創出を目的に、2012年6月に始まったプロジェクトです。プロジェクトの拠点となっているのは、江戸期創業の広大な酒蔵跡です。これまで近江八幡の歴史・文化を育んできた人々の生活や産業の軌跡が随所で感じ取られます。この場所が、近江八幡の歴史・文化に出会い、深く知ることができる場所となりますように。そしてこの地で暮らす人たちが、身近であるがゆえに見過ごしているかもしれない 地域の魅力に、いつでも還れる場所となりますように。地域の文化を愛する人々の手仕事によって、この地に刻まれてきた偉大な知恵と、現代の私たちの知識や技術から、また新たな歴史・文化が紡ぎ出されていくことでしょう。