めぐるり -Megururi-

近江八幡の魅力を探求する
WEB MAGAZINE
「今、やらなあかん」先人から次世代へ、ヨシ文化を受け継いでいく
宮尾 陽介Yousuke Miyao
近江八幡市職員
目次
近江八幡のヨシは日本一の品質とも言われ、古くから葭簀(ヨシズ)や茅葺き屋根の素材として活用されてきました。宮尾陽介さんは、近江八幡市職員として働きながら「特定非営利活動法人まるよし」の理事長として、「ヨシの活用によるヨシ原の保全」を行っています。
ヨシの魅力を発信するとともに、新たな活用方法を模索する宮尾さんにお話を伺いました。
「今、やらなあかん」宮尾さんを動かしたヨシ保全への想い
めぐるり編集部(以下、めぐるり)
保全活動をはじめたきっかけはなんだったのでしょうか?
宮尾さん
きっかけは、令和2年頃に環境政策を行う部署でヨシ群落の保全業務を担当していたことが大きいと感じています。実は西の湖周辺のヨシ原はほとんどが私有地。そのため行政としては直接保全活動をすることはできない状況で、歯がゆい思いをしていました。
元々、私自身も西の湖のほとりにある円山町出身ですので、小さい頃からヨシは生活の一部でした。以前は「刈り子」と呼ばれるヨシを刈る仕事が盛んで、祖母がそれをしていたり、ご近所さんは何かしらヨシに関わっていたり。
また、西の湖周辺のヨシ原は、江戸時代からヨシの卸売が盛んでしたが、生活の西洋化で需要が減った上に職人の高齢化も進んでしまい、いつ途絶えてもおかしくない状況でした。
市職員という立場だと人事異動があるのでいつまでヨシ原の業務ができるのか分からない、「支援するだけでは手遅れになってしまう。今、やらなあかん!」状況を打破するために保全活動を始めました。

めぐるり
今、何とかしないとダメだと思ったんですね。
保全活動としてどのようなことを実施されているのでしょうか?
宮尾さん
現在、ヨシは需要が減ったことで、刈り取りやすい土地で売れる分だけを収穫するようになり、それ以外は放置されていっているという状況にあり課題を感じています。
ヨシという植物は人間の手が入らないとどんどん質が落ちていってしまいます。円山地域は水路に囲まれて舟でしか行けない場所があるため、土地の所有者に代わって舟で飛地に渡ってヨシ刈りとヨシ焼きを実施しています。
手の空いている年だけ管理していては、良質なヨシはできません。毎年4月頃に芽吹くので、品質の良いヨシを生産するためには、毎年刈り取る必要があります。
伝え続けたい先人たちからの「資源を大切にする姿勢」

めぐるり
ヨシは毎年刈り取りをしないといけないのですね。
宮尾さん
そうなんです。ヨシは毎年しっかり刈り取らないと、前の年に成長した古いヨシが新芽の成長の邪魔をして上手く育たないんです。ヨシは4月に芽吹いてから夏にかけて一気に4〜5mまで成長し、その過程で水や空気を綺麗にしてくれます。
そして12月頃から収穫を始め、そこから3ヶ月でヨシ刈りとヨシ焼きをしていきます。刈らなければ4月に芽吹く新芽は元気に育ちませんし、ヨシ焼きをしなければ雑草や害虫が残り、良いヨシができません。また、刈らずに放置され腐敗したヨシは、せっかく綺麗にした水や空気を汚すことにもなってしまいます。
だからこそ、毎年刈り取るサイクルを続けないといけないんです。手間はかかりますが、それを脈々と続けてきたからこそ、今なお日本の原風景が残っていると思っています。
めぐるり
品質の良いヨシを使う為には、毎年しっかり手入れをしないといけないんですね。
刈り取ったヨシはどのように活用されているのですか?
宮尾さん
昔は茅葺き屋根の需要が最も多くありました。葺き替えた後の古いヨシは畑の肥料や土壌改良にも使っていましたが、時代の変化で茅葺き屋根の需要が激減したため、ヨシの消費量も減ってしまいました。これはとても重要な課題です。消費量が減ってしまうとヨシ刈りも減り、最終的にはヨシ原の荒廃につながってしまいます。
その解決に向け、茅葺茅葺き屋根や葭簀(ヨシズ)といった従来の製品に加えて、新たな活用方法を模索しています。例えば、琵琶湖よし笛やヨシ糸を使った編み物などが開発されており、沢山の方に関心を持ってもらっています。とても魅力溢れる商品で、ヨシはポテンシャルの高い素材だと感じます。
ヨシが形を変えて様々な商品に生まれ変わり、沢山の方に手にとってもらうことは、ヨシの大量消費になると考えていますし、最終的にはヨシの保全にも繋がっていくと思います。
使えなくなったら廃棄物としてすぐに処分するのではなくて資源を大切にする、という先人の姿勢を次世代に伝えていきたいと思っています。
ヨシの活用方法は無限大

めぐるり
たまに小学校に出向いてワークショップをさせてもらうのですが、以前お邪魔した学校の先生が、近江八幡の子どもたちは課外授業でヨシについて学ぶ機会はあるけど、自分の生活とは遠い存在として捉えているのがもったいないという話を聞いたことがあります。
私自身も名産品としてのヨシは知ってはいるものの、簾(すだれ)が必要になった時はホームセンターで買った中国産のものを意識せずに使っていました。
宮尾さん
ヨシという植物は知っていても、どのような能力を持っているのか、どのように活用できるのか知っている人は少ないのが現状です。まずは、たくさんの人に近江八幡のヨシの魅力を知ってもらうことからスタートだと思っています。
具体的には、ふるさと納税の返礼品に申請したり、新しい試みとしてヨシボード(板)に加工して販売する計画を進めています。また、主体的な発信にも力をいれています。毎年「ヨシフェス」を開催して、葭簀編みのワークショップや葭うどんの販売、よし笛コンサートなど、五感で楽しんでもらえる身近なイベントも行っています。是非気軽に足を運んで欲しいですね。

まずは「ヨシの魅力」を知ってもらい、「ヨシ原を守っていく大切さ」を多くの人に気づいてもらいたいです。ヨシ原を守るためにはヨシを活用した商品を多くの方に手に取っていただく機会が必要だと考えています。
今年の4月4日(ヨシの日)に設立した「特定非営利活動法人まるよし」として様々な事業に取り組んでいきます。まるよしでは、ヨシの保全だけではなく、ヨシを観るという視点からカヤックやSUPの体験会、ヨシに関わる生き物(水鳥、プランクトンなど)の観察会、なども計画しています。多くの入口(参加するきっかけ)を作ることで、少しでも多くの出口(ヨシの使い道)に繋がれば、と考えていますので、少しでも興味のある方は、いつでも気兼ねなくご連絡ください。
連絡先:特定非営利活動法人まるよし
理事長:宮尾陽介
080-4393-1807
info@npo-maruyoshi.com
めぐるり
2024年のBIWAKOビエンナーレでは、宮尾さんご協力のもと、ヨシを使った大規模な作品を制作するヨシアートプロジェクトがスタートしています。
安土町のフリースクールSinceに通う子どもたちとワークショップを重ねながら構想を練った作品を展示する予定です。ヨシ刈り体験からスタートし、ヨシ職人の西川さんにお話を聞いたり、ヨシの素材としての可能性を引き出すアートワークショップをしたり、絶賛進行中のこちらのプロジェクトの成果をぜひ見にきてほしいです。


記事の関連情報
まるやまの自然と文化を守る会
かつては、産業活動を継続する上で必然的に綺麗なヨシ原が維持され、その結果として水質や生物にとってよい環境が維持されてきましたが、今では水質や生物や景観などを保全するためにヨシ原を適正に管理するという考え方も出てきています。
ヨシ原を保全するためにはヨシ刈りやヨシ焼きだけではなく、ヨシの魅力を広め、ヨシ製品の需要を高めることが不可欠と考えており、ヨシを活用することでヨシ原の保全につながるよう幅広く取り組んでいます。