めぐるり -Megururi-

近江八幡の魅力を探求する
WEB MAGAZINE
自由な発想で美味しさを探求するクラフトビールの魅力を伝えたい。業界全体のレベルを上げて、より身近な存在へ
コレット理子Collett Ayako
オーストラリア出身の夫・ショーンさんと一緒にクラフトビール醸造所「TWO RABBITS BREWING COMPANY/二兎醸造株式会社」を2017年に設立
目次
八幡堀近くに醸造所と直営店のタップルームを構える「TWO RABBITS BREWING COMPANY」は満月に二匹の兎が描かれた看板が目印。名前の由来は「二兎を追うものは一兎をも得ず」から来ているのだそう。それをあえて逆の意味で捉え「クラフトビールに専念する」という熱い思いが込められています。「クラフトビール」一筋に邁進するご夫婦の活動、そして今後の展望について伺いました。

近江八幡は自然豊かで子育てにもビジネスにも最適!自分たちの理想が全て叶う場所でした
めぐるり編集部(以下めぐるり)
理子さんは山口県、ショーンさんはオーストラリアご出身ですが、なぜ近江八幡に拠点を決めたのでしょうか?
コレット理子さん
夫のショーンは「起業をしてみたい」という気持ちをずっと持っていて、経営について本格的に学ぶために2015年に京都大学経営管理大学院に進学しました。
その頃第1子が生まれて、子育ての環境を考えた時に自然豊かな場所で育てたいと思うようになりました。そこで候補に上がったのが滋賀でした。ウォータースポーツが好きなので普段からよく琵琶湖に遊びに行っていて、居心地のいい場所がたくさんあるなって思っていたんです。
また、起業する場所としても滋賀は魅力的でした。京都・大阪・東京へもアクセスがよくて商品の輸送コストも抑えられますし、都心よりも家賃も安い。近江八幡にした理由は、ご縁があって今の醸造所の場所を紹介してもらって、とても素敵な地域だったのでこの場所で起業をすることにしました。

めぐるり
まさに理想の場所ですね。
その後ショーンさんは大学院を卒業して起業をしていくわけですが、どうしてブルワリービジネスを選んだのでしょうか?
コレット理子さん
オーストラリアではホームブルーイング(自家醸造)と言って自分でビールを作る文化があるんです。売るのはライセンスが必要ですが自分で飲む分には合法で、ショーンが趣味で10年くらい続けていました。
ちょうど上の子が生まれたタイミングで孫の顔を見せにオーストラリアに帰省したのですが、義父が料理学校の先生をしていて職場体験ツアーをしてもらったことがあったんですね。
その時に、ブルーイング(醸造)を教えるコースもあって、ピカピカに磨かれた醸造機械を見てショーンが「ビビッ!」ときたみたいで。元々、趣味としてやっていたものをビジネスとして展開しようとひらめいたのはそのタイミングみたいですね。

めぐるり
お父様に感謝ですね!
オーストラリアは自家醸造できるなど日本と文化が違う印象ですが、他にも異なる部分や困ったことなどありましたか?
コレット理子さん
日本にはビールを専門的に勉強する場所がなくて、既に免許を持っている醸造所に一定期間研修に行けば学んだとみなされるんですね。
でも、彼はそもそも趣味で10年ホームブルーイングをしていたし、クラフトビール先進国とも言われているオーストラリアの出身。専門的な学校でしっかり勉強したいと単身で母国に戻ってビール醸造の専門機関で学び、オーストラリアの国家資格を取得しました。
せっかく起業するなら手がける商品は品質の高いものを提供したいという部分は私も同じ想いを持っています。

めぐるり
起業の話を聞いた時、理子さんはどんな気持ちでしたか?
コレット理子さん
やりたいことがあるなら人生1回きりだし、やった方が良い!って思いました。私自身も25歳のときにオーストラリアに留学をして人生が大きく変わった経験をしていますしね。
めぐるり
同じような経験をしているからこそショーンさんの起業を応援できたんですね。ところで理子さんがオーストラリアに行ったのはどういう理由があったのでしょうか?
コレット理子さん
「英語で仕事ができるくらいに上達する」と決めて留学をしました。英語ができる人はたくさんいると思いますが、英語で仕事ができる人は少ないと思います。そのレベルまでやり切りたいという覚悟を持って留学しました。
私の両親がちょっと変わった人で「何を勉強したいのか分からない状態なら大学に行かなくていい」という考えで、当時の自分は何を本当に学びたいのかわからない状態だったので、確かにそうだなって思ったので高校卒業後は就職しました。
その後、イギリス人とアメリカ人の友達ができたことをきっかけに英語に興味を持ちました。しっかり英語を学びたいという気持ちが強くなり留学を決めました。初めはワーキングホリデーも考えたのですが、中途半端になりたくなくて、語学学校で1年勉強した後に、現地の大学の教育学部に入学しました。
めぐるり
すごい行動力ですね!
海外の教育は日本とはかなり違った印象がありますが、実際どうでしたか?
コレット理子さん
オーストラリアで教員免許を取得して、現地の小学校で先生をしていましたが、日本との違いでびっくりしたのが「教科書がない!」ってことでした。
教育のカリキュラムはありますが、それをカバーしていれば何の教材を使うかは先生が決められるんです。例えば遠足に行く場合でも隣のクラスと行き先が違うんですよ。
うちのクラスは今これを勉強しているから、ゴミ処理場に行きましょうとか、それぞれのクラスの学習内容に合わせて先生が決められる。すごい自由なんです。
めぐるり
日本と全然違う!面白いですね!

コレット理子さん
日本だと全て決まっていますよね。指導要領を大事にしているので、教科書はもちろん決まっているし、1年間のカリキュラムも決まっています。
日本には日本のよさがあると思いますが、私個人は、自由でのびのびとした発想で子どもたちを教えることができたことはとても楽しかったですし、貴重な経験になりました。今のビール作りにおいても生かされていると思います。
ピンチはチャンス!
これまでの概念を覆した「缶売り」の導入で身近になったお客様
コレット理子さん
創業してもうすぐ8年目に突入しますが、ちょうど1年目が終わった頃にコロナが始まってしまって。それまでは、「樽売り」で飲食店に卸していましたが、あんな状況だったので樽が売れなくなってしまいました。そこで家飲み需要にも応えられるよう「缶売り」に大きく舵を切りました。
実は缶はすごくメリットがあるんです。日光を一切通さないし、密閉性が高い上に軽くて割れない。しかも重ねられるから省スペースで良いんですよ。樽の時は飲食店さんが主な販売先でしたが、缶にしてからは地元のスーパーやコンビニなどにも置いてもらえるようになり、沢山のお客さんの目に触れるようになりました。市場が広がったのが大きかったですね。

めぐるり
缶に変えたことで大きな変化があったんですね。パッケージもとても素敵ですがどんな思いや狙いがあるのでしょうか?
コレット理子さん
私たちのビールを知らなくても「なんか可愛いから買ってみようかな」など見た目のインパクトで思わずジャケ買いしたくなるようなものにしています。パッケージもビールのイメージに合わせて変えているので、私達の想いや商品のコンセプトを伝えやすくなりました。
めぐるり
色々な種類のクラフトビールを作っていますが、どのように味やコンセプトを決めているのですか?
コレット理子さん
毎年出すものや季節限定にしているものなどその時によって様々です。英語で海外の情報を仕入れられるので、醸造技術やトレンドをいち早く取り入れて作ることもでき、それがうちの強みだと思います。
日本はずっとIPA*という種類のビールが根強い人気ですが、それ以上に何百種類と沢山のビールがあるのでそこを知ってもらいたいですね。ビールと聞くと夏のイメージを持たれがちですが、秋冬は赤や黒色の見た目が濃くて体を温めるものがあったりして、季節によって美味しく飲めるビールが変わることも楽しみの1つです。

クラフトビールって小規模で色々な種類を出して選ぶ楽しみがあると思うんです。だからこの場所で自分の好きなビールに出逢って欲しいと思いますね。
社長がオーストラリア出身なので、「ホップ」はもちろんビールもオーストラリアとニュージーランドスタイルのものを作ることが多く、それが私たちのビールの特徴でもあるので、その魅力も同時に知ってもらえたら嬉しいです。
*IPAとは「インディア・ペールエール (India Pale Ale)」の略。日本では大手ビールメーカーが製造してきた「キレのいい」ラガービールが中心だった。IPAは、対照的にホップ由来の華やかな香りとしっかりとした苦味が特徴。「今までになかった味わい」「個性的な風味」が人気となり、クラフトビールブームを牽引してきた。
業界全体のレベル向上で更なる認知度UPへ
めぐるり
滋賀でクラフトビールアソシエーションを立ち上げたと伺いましたが
コレット理子さん
クラフトビール業界全体の底上げになれば良いと思って設立しました。醸造所によって知識や味、品質にばらつきがあったりするのでそれをみんなでブラッシュアップしていこうという目的です。
クラフトビールの業界ってお互いに助け合う文化があるんです。それぞれの強みや弱みも共有しながらよりよいビールを作りたいっていう気持ちがある。その文化を上手く使って勉強会やトレーニングをしたりして、お互いに補い合いながら切磋琢磨していきたいです。
めぐるり
最後に理子さんが考える近江八幡の可能性や魅力について教えてください
コレット理子さん
私たちは子育てやビジネスをする場所という観点で近江八幡に移住してきました。この選択は本当に正解だったなって思っています。
コレット理子さん
琵琶湖でウォータースポーツやキャンプもできるし、本当に自然が豊かです。彦根や長浜に比べると観光地としてスキップされやすい場所ですが、魅力の沢山ある宝のような場所だと思っています。
そんな素敵な部分を観光客の方にもっと知ってもらい、足を運んで欲しいですし、地元の商店さんとも一丸となってもっと近江八幡を元気にしていきたいですね。
記事の関連情報

TWO RABBITS BREWING CO./二兎醸造株式会社
滋賀県近江八幡市にあるクラフトビール醸造所
全ての人が『美味しい一杯』に出会える、多様なスタイルのビールを提供している。
直営タップルーム BEER HOUSE 近江八幡市大杉町27